2012年11月27日火曜日

計測データで見えるもの

 砂防学会誌の最新号に、砂防学会講習会開催のお知らせがありました。それによると、航空レーザー計測による表層土層厚の推定、レーザー測量データを用いた岩盤クリープ表面形状の把握といったタイトルが並んでいました。レーザーを使った地形計測が実用化、論文がでるようになって10年あまりですが、特定の地形種の抽出、いわばなにが見えた見えないの域を出ていないように感じます。
 守屋以智雄(1972):崩壊地形を最小単位とした山地斜面の地形分類と斜面発達,日本地理学会予稿集 2, pp.168-169という、論文にはなっていないものの、斜面地形に関わる研究者・技術者にとって有名な文献があります。定性的な斜面発達のモデリングですが、これに精密な地形量を与えることができれば、地形工学の発展に寄与するでしょう。これからは、そういう十年にしたいと思っています。

2012年11月24日土曜日

災害の大調査団

  砂防学会誌の最新号に、昨年7月に発生した阿蘇の豪雨災害の調査報告が掲載されてしました。災害の原因となった崩壊のメカニズムとしては、約3,000年前の褐色シルト火山灰層やクロボク層付近にすべり面が発生して、その上位の黒色火山灰層やクロボク層が剥落したもの、とされていますが、既存の文献に同調しただけでした。

 http://ci.nii.ac.jp/naid/110001269647
 宮縁 育夫 ・大丸 裕武・ 小松 陽一(2004):2001年6月29日豪雨によって阿蘇火山で発生した斜面崩壊とラハールの特徴,地形 25(1),pp. 23-43

 それにしても著者が23人にも及ぶ大調査団です。せっかく人数がいるのだから、土層強度検査棒を用いて崩壊した火山灰層の深さと強度を測定して、シミュレーション結果を検証するなり、マンパワーを生かした調査ができなかったでしょうか。これでは、調査というより視察に近い。

2012年11月23日金曜日

土木学会上級技術者

 この資格を取る人が最近増えてきました。聞けば技術士の試験とよく似ていて、難易度も高く技術士受験応援ページにもいろんな意見が寄せられていました。

 http://16611.webspace.ne.jp/rental/img_bbs2/bbs.php?pid=16611&mode=r&no=32155&mode2=tree

 意見のなかには、資格の乱立だというのもあれば、技術士+学会認定技術者ななどのようにより専門性が認められる制度になればよいというものもあります。過去問をみていると本当に技術士試験とそっくりです。技術士の二次試験対策のトレーニングにはぴったりなのかなあとも思いますが、、、
 最近現地調査が多くスケッチと写真とさらっとした所見を書いて、次の現場へということを繰り返しており、簡潔かつ論理構成の明確な文章を書く、という機会が少なくなっていますので、、、

2012年11月17日土曜日

用語の歴史・問題

  いま仕事でも学術論文でも、報道でも「深層崩壊」が一種のはやりのような状況です。私が学生のころ、あるいは20代のころは、主に大規模崩壊という言葉を使っていたし、上司は地すべり性崩壊、基岩崩落、破砕帯地すべりなど、さらにいろんな言葉を使っておりました。
 そんななか、高知大学の横山先生の論文でこのような斜面崩壊や土石流という言葉について詳しく解説されていました。

横山俊治・ 村井政徳・中屋志郎・西山賢一・大岡和俊・中野 浩
https://www.jstage.jst.go.jp/article/geosoc/112/Supplement/112_Supplement_S137/_pdf
小出(1955)の定義による破砕帯地すべりは今日の知識からすれば付加体分布地域で多発している.破砕帯地すべりは地すべり性崩壊であると小出(1955)が記述しているように,崩壊時に破壊された地すべり移動体は山津波となって谷を流下し,しばしば末端では河川を堰き止める.見学地である阿津江の事例には,このような破砕帯地すべりの特徴がくまなく現れている.

 さらに、土石流については「研究」「行政」「社会」「言語(辞典)」のそれぞれの分野について、どのような言葉が用いられてきたか、歴史がまとめられていました。それによると、「社会」「言語」分野では1980年代から使われるなど、意外と歴史が新しいなといった印象です。逆に研究レベルでは1920年代から土石流が使われています。横山先生の論文では、2004年の災害時に流木と大量の水を巻き込んだことによって、土石流の水位が堆積物の数倍に及ぶことを明らかにした上で、「土石と流木と水からなる混合物」を山津波と呼ぶとされています。

 現在”はやっている”深層崩壊という用語は、ここまで現象論・成因論を踏まえているかというと、、、、、

2012年11月13日火曜日

群発する崩壊、群発する大規模崩壊

 京都大学防災研究所の千木良先生の文献は、文章も明快でわかりやすく最新の地形計測、年代測定手法も用いられており、非常に勉強になります。羽田野誠一さんが論じておられた大規模崩壊の地形条件が定量的に検証された結果ともいえます。折に触れ、またUPしていきたいとおもいます。私の研究テーマにも重なります。

降雨による崩壊が多発した地域の地質-広域的ハザード評価に向けて-
http://www.dpri.kyoto-u.ac.jp/web_j/hapyo/04/b12.pdf

紀伊半島・十津川上流部の下刻速度 ―宇宙線生成核種を用いた蛇行切断の年代決定からのアプローチー
http://www.dpri.kyoto-u.ac.jp/nenpo/no55/ronbunB/a55b0p28.pdf

2011年台風12号による深層崩壊
http://www.dpri.kyoto-u.ac.jp/nenpo/no55/ronbunA/a55a0p08.pdf

2012年11月3日土曜日

学会発表概要集 - 分厚い砂防学会、ちょっと薄くなった応用地質学会

 私は直接参加しておりませんでしたが、今年の応用地質学会の研究発表論文集を見ました。やや薄くなったかなあという印象です。一方で、5月に参加した砂防学会概要集は、一気に電話帳のように分厚くなっていました。
 3.11及び紀伊半島水害など、2011年は歴史的な大災害の年であり、防災面、エネルギー・廃棄物の処理問題など、私たち技術者が取り組むべき課題が山積した年でした。
 しかしながら(というべきか)砂防学会は、2009年の山口県豪雨災害や広島県庄原市の土石流など、紀伊半島の水害も含め”災害の報告”が非常に多かったことと、なんとか"深層崩壊”という言葉を定着させようという「ムード」はありましたが、そのわりに議論がすくなかった。いかにも報告会の全国版といった印象をもちました。
 応用地質学会の論文集がやや薄くなったのは、、、私がそうであったように現場技術者が忙しすぎるのか、テーマが重大すぎておいそれと結論が出しにくいのか、、、編集委員の方にきいても投稿が少ないようで、、、活力がないのはさびしいことです。